バイク事故と慰謝料相場(2)〜慰謝料の3つの基準〜

前回から「バイク事故と慰謝料相場」について解説をしています。

今回は交通事故慰謝料の3つの基準を見ていきたいと思います。

 

交通事故慰謝料の3つの基準

f:id:samuraigyou:20210520185649j:plain

まず、バイクの交通事故の入通院慰謝料と後遺障害慰謝料については、次の3つの算定基準が存在しています。

どの基準を採用するかで算出される慰謝料金額の相場は変わってきますので、この基準の相場を理解することは重要です。

 

  • ・自賠責保険基準
  • ・任意保険基準
  • ・弁護士基準(裁判基準)

 

(1)自賠責保険基準について

自賠責保険基準とは、自賠責保険での支払い基準のことをさします。

 

自賠責保険とは、自動車損害賠償責任保険の略称です。

自賠責保険は、被害者を救済することを目的に、自動車を運転する人に加入が義務付けられているものです。
交通事故による負傷や後遺障害などに対する賠償金の相場が決定されています。

 

自賠責保険は強制保険と呼ばれているもので、いわゆる原付(原動機付自転車)を含むあらゆる自動車を使用する人は加入しなければなりません。

 

自賠責保険には加入義務がありますので、この義務に反して自賠責保険に加入せずに自動車を運行した場合には、違法点数6点となり直ちに免許停止処分や1年以下の懲役または50万円以下の罰金という厳しい行政処分及び刑事処罰の対象となってしまいます。

 

また、自賠責保険の証明書を携帯せずに自動車を運行した場合であっても、30万円以下の罰金という刑事罰の対象とされていますので注意が必要です。

 

この制度の主な目的は、被害者に対する最低限度の補償にあります。
自賠責保険は強制加入の「共済」という性質が強い保険になります。
したがって、被害者に補償される範囲は対人賠償に限られ、対物補償は含まれていません。

 

さらに補償には上限額が決められています。
自賠責保険の被害者に補償される上限額は、120万円と決まっています。
この上限は、慰謝料のみならず治療費や休業損害・逸失利益などその他のすべての損害賠償額が120万円を超える範囲については補償してくれません。

 

以上から、自賠責保険基準は被害者の救済のために必要最低限度の補償金額が設定されており、十分な額であると言うことは難しいでしょう。

 

(2)任意保険基準とは

任意保険基準とは、保険会社が独自に定めている慰謝料の算定基準になります。
そのため、任意保険会社によって定められている基準は、会社ごとに多少異なるところがあります。

 

強制的に加入が義務付けられている自賠責保険と比較して、任意保険は「任意」と呼ばれているとおり、自転車の利用者には加入する義務はありません。

加入者がどこの保険会社と契約するか、どのような損害を補償してもらうのかも自由に選択して契約することができます。

 

任意保険により具体的に補償することができる損害の範囲は以下にあげるものになります。

 

(1)対人賠償保険
対人賠償保険とは、交通事故の相手方を負傷または死亡させてしまった場合に、損害を補填してもらうために加入する保険です。
自賠責保険の補償上限を超える損害を補うために任意保険が利用されます。

 

(2)対物賠償保険
対物賠償保険とは、交通事故によって相手方の自動車や第三者の物品を破損・故障させてしまった場合に、損害を補填してもらうために加入する保険です。

 

(3)人身傷害保険
人身傷害保険とは、加入者自身や搭乗者を対象に、契約車以外の搭乗中や歩行中の事故を含めた交通事故による受傷を補償するために加入しておく保険です。

 

(4)搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険とは、交通事故による搭乗者への受傷を補償するために契約者が加入しておく保険です。

 

(5)無保険車傷害保険
無保険車傷害保険とは、加害者に損害賠償能力がない場合に、損害を補償してもらうために加入する保険です。例えば,交通事故の相手方が無保険車だったようなケースです。

 

(6)車両保険
車両保険とは、交通事故により契約車が破損・故障した場合に、損害を補償してもらうために加入する保険です。

 

対人賠償保険や対物賠償保険は、制限なしで補償される任意保険が多い印象です。
自賠責保険の補償限度額が120万円ですので自賠責保険で補償できない損害を補うために加入する方が多いでしょう。

 

対物賠償については自賠責保険では補償されないため任意保険に加入して損害を補償することになります。

 

以上みてきた任意保険基準ですが、任意保険会社が提示する任意保険基準はあくまで社内基準ですので外部の人間が確認することができません。
対人賠償保険には限度額がありませんが、どの程度の金額が補償されるのは公にはされていないという実態があります。

 

バイク事故と慰謝料相場シリーズで提示するような任意保険基準は過去の保険会社のデータなどから補償額を算出した推定値になります。

 

弁護士基準(裁判基準)とはなにか

弁護士基準は、裁判基準とも呼ばれています。
弁護士基準とは、過去の交通事故判例などを参考に裁判所が認めた損害賠償額を基準に算出した基準になります。

 

上記3つの慰謝料算定基準の中でもっとも高い基準になります。

 

弁護士基準は、日弁連交通事故相談センターが出版している「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」という書籍(通称:赤い本)に掲載されています。

また「交通事故損害算定基準」という書籍(通称:青い本)にも弁護士基準は掲載されています。
 

弁護士基準は、裁判所が特別に認めた特殊な基準というような印象を受ける方が多いかもしれません。
しかし、実際は裁判所が紛争のあった交通事故事件について、当事者双方からなされた主張や提出された証拠に基づいて、法的に正当な金額として認定した損害賠償金額になります。
したがって、もっとも厳格に被害者の損害を評価して認められた賠償金額であると言えます。

 

過去の裁判例を参考にしていますので、当事者の間で十分主張立証が尽くされたうえで裁判官が心証を抱いて判断されて算出されたものになります。
保険会社がいわば勝手に設定している人保険基準とは違って、客観的かつ公正な基準であると言ことができるでしょう。

 

なお、権威ある裁判所が判断した基準であるのであれば、全ての事件を弁護士基準で慰謝料額を算定すれでよいのではないかと思われる方もいるかもしれません。
たしかに弁護士基準は実際の裁判でも参考にされ、弁護士や裁判官も参照しながら訴訟手続を進めていく基準ですが、あくまで参考です。

 

それでは、相場が高い弁護士基準で損害賠償を請求するためにはどうすればよいのでしょうか。
裁判基準だからといって、必ずしも訴訟を提起する必要はありません。

 

弁護士に依頼した場合には、弁護士基準で算出された賠償額で和解交渉を行います。
したがって、任意での話し合いを弁護士に依頼すれば、弁護士基準またはその基準に近い基準で和解交渉を進めることができます。

 

双方譲歩した上で和解する場合には、弁護基準どおりの満額の賠償金が受けとるというのは難しいでしょうが、他の2種類の慰謝料基準と比べて、より高額な弁護士基準を参照して高い金額で示談できる場合がほとんどです。
この点の詳細については次回以降に解説をします。

 

まとめ

どの基準で示談交渉を進めるのかによって金額が変わってきますので、示談交渉に応じる際は慎重になさってください。

 

本日もお読みいただき、ありがとうございました。